ブールへもウエスト街へも再び足をふみ入れまいと自ら誓った。彼はプリューメ街へ戻った。
 コゼットは不平を言わなかった、何事も言わなかった、疑問を発しもしなかった、理由を知ろうともしなかった。彼女はもはや、意中がさとられはしないかを恐れ秘密がもれはしないかを恐れるほどになっていた。ジャン・ヴァルジャンはその種の不幸には少しも経験を持たなかった。それこそ世に可憐《かれん》なる唯一の不幸であり、しかも彼が知らない唯一の不幸であった。その結果彼はコゼットの沈黙の重大な意味を少しもさとらなかった。ただ彼はコゼットが寂しげな様子になったのを認めて、自分も陰鬱《いんうつ》になった。両者いずれにも無経験な暗闘があった。
 一度彼はためしてみた。彼はコゼットに尋ねた。
「リュクサンブールへ行ってみようか?」
 一条の光がコゼットの青白い顔を輝かした。
「ええ。」と彼女は言った。
 ふたりはそこへ行った。三月《みつき》も経た後であった。マリユスはもうそこへ行ってはいなかった。マリユスはそこにいなかった。
 翌日ジャン・ヴァルジャンはコゼットに尋ねた。
「リュクサンブールへ行ってみようか?」
 彼女は悲しげ
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