ではあったが自分に武器があることをよく感じていた。子供がナイフをもてあそぶように女は自分の美をもてあそぶ。そしてついには自ら傷つくものである。
 マリユスの躊躇《ちゅうちょ》や恐れや胸の動悸《どうき》などは、読者の記憶するところであろう。彼は自分のベンチに腰を据えて近寄ってゆかなかった。それはコゼットに不快を与えた。ある日彼女はジャン・ヴァルジャンに言った、「お父様、少し向こうへ歩いてみましょうか。」マリユスが少しも自分の方へこないのを見て、彼女は自分の方から彼の所へやって行った。こういう場合は、女は皆マホメットに似るものである。そして妙なことではあるが、真の恋の最初の兆候は、青年にあっては臆病《おくびょう》さであり、若い女にあっては大胆さである。考えると不思議ではあるが、しかし実は当然すぎることである。すなわち両性が互いに接近せんとして互いに性質を取り替えるからである。
 その日、コゼットの一瞥《いちべつ》はマリユスを狂気させ、マリユスの一瞥はコゼットを震えさした。マリユスは信念を得て帰ってゆき、コゼットは不安をいだいて帰っていった。その日以来、彼らは互いに景慕し合った。
 コゼット
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