きよ》い光景であった。そこの緑の楽しい影のうちでは、汚れに染まぬ数多の声が静かに人の魂に向かって語っており、小鳥の囀《さえず》りで足りないところは昆虫《こんちゅう》の羽音が補っていた。夕には、夢の気が庭から立ち上って一面にひろがっていった。靄《もや》の柩衣《きゅうい》が、この世のものとも思えぬ静かな哀愁が、庭をおおうていた。忍冬《すいかずら》や昼顔の酔うような香《かお》りが、快い美妙な毒のように四方から発散していた。枝葉の下に眠りに来る啄木鳥《きつつき》や鶺鴒《せきれい》の最後の声が聞こえていた。小鳥と樹木との聖《きよ》い親交がそこに感じられた。昼間は鳥の翼が木の葉を喜ばせ、夜には木の葉が翼を保護する。
 冬になると、その藪《やぶ》は黒ずみ湿り棘立《いらだ》ちおののいて、家の方をいくらか透かし見せた。小枝の花や花弁の露の代わりには、散り敷いた紅葉の冷ややかな敷き物の上に、蛞蝓《なめくじ》の長い銀色のはい跡が見えていた。しかしいずれにしても、いかなる光景にあっても、春夏秋冬のいかなる季節においても、その小さな一囲いの地は、憂愁と瞑想と寂寥《せきりょう》と自由と人間の不在と神の存在とを現わ
前へ 次へ
全722ページ中138ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
ユゴー ヴィクトル の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング