っておくが、鞄はそれ以来彼の手もとを離れなかった。彼はそれをいつも自分の室《へや》の中に置いていた。移転の際に彼が持ってゆく品物は、それが第一のもので、時としては唯一のものだった。コゼットはそれをおかしがって、彼につき物[#「つき物」に傍点]だと呼び、「私それがうらやましい」と言っていた。
 ジャン・ヴァルジャンもさすがに、自由の地に出ては深い心配をいだかざるを得なかった。
 彼はプリューメ街の家を見いだして、その中に潜んだ。以来彼はユルティーム・フォーシュルヴァンと名乗っていた。
 同時に彼はパリーのうちに他に二カ所居室を借りた。そうすれば、同じ町にいつも住んでるより人の注意をひくことが少ないからであり、少しでも不安があれば必要に応じて家をあけることができるからであり、また、不思議にもジャヴェルの手をのがれたあの晩のように行き所に困ることがないからであった。その二つの居室は、ごく小さなみすぼらしい住居であって、互いにごく離れた街区にあった、すなわち一つはウエスト街に、一つはオンム・アルメ街に。
 彼は時々、あるいはオンム・アルメ街に行き、あるいはウエスト街に行って、トゥーサンも連れず
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