bに出て来るどんな怪物よりも更に醜いかと思われるほどだった。けれども、女中というものは常に上さんの下に位するのが普通であるとおり、彼女も醜さの上ではユシュルー上さんに劣っていた。ジブロットは背の高い、弱々しい、淋巴質《りんぱしつ》の色白い女で、目の縁が黒く、眼瞼《まぶた》がたれ下がり、いつも元気がなくがっかりして、慢性の疲労にとっつかれているとでもいうふうだったが、朝はまっさきに起き上がり、晩は最後に寝、だれの言うことでもきき、もひとりの女中の用までしてやりながら、無口でおとなしく、疲れた顔に生気のないぼんやりした微笑を浮かべていた。
 勘定台の下には鏡が一つついていた。
 レストーランになってる広間の入り口の扉《とびら》には、クールフェーラックが白墨で書いた次の一句が読まれた。

[#天から4字下げ]汝得べくんば奢《おご》れよ、勇気あらば自ら食せよ。

     二 門出の宴

 読者の知るとおり、レーグル・ド・モーはたいていジョリーといっしょに住んでいた。小鳥に木の枝があるように彼にも一つの住居があったわけである。ふたりの友人は、共に住み共に食し共に眠っていた。すべてが、ムュジシェッタ([#ここから割り注]訳者注 ジョリーの情婦[#ここで割り注終わり])までも多少、彼らには共通であった。あたかも雛僧《ひなそう》のうちでふたり組み[#「ふたり組み」に傍点]と言われる者のような間柄だった。ところで六月五日の朝、彼らは共にコラント亭へ朝食をしに行った。ジョリーは鼻がつまってひどい鼻感冒《はなかぜ》をひいていたが、レーグルもそれに感染しかかっていた。レーグルの服はすり切れてい、ジョリーはりっぱな服をつけていた。
 彼らがコラント亭の扉をくぐったのは、朝九時ごろだった。
 ふたりは二階に上がった。
 マトロートとジブロットが彼らを迎えた。
「牡蠣《かき》にチーズにハム。」とレーグルは言った。
 そしてふたりは食卓についた。
 店の中はがらんとしていて、彼らふたりきりだった。
 ジブロットはジョリーとレーグルに謝意を表わして、食卓の上に葡萄酒《ぶどうしゅ》の一瓶《ひとびん》を添えた。
 ふたりが牡蠣を食い始めていると、階段の出入り口から一つの顔がのぞき出して言った。
「前を通りかかると、ブリーのチーズのうまそうなにおいが往来までしていたので、はいってきたよ。」
 それはグランテールだった。
 グランテールは腰掛けを引きよせて食卓についた。
 ジブロットはグランテールを見て、食卓の上に葡萄酒の瓶を二本置いた。
 それで三本になったのである。
「君は二本とも飲むのか。」とレーグルはグランテールに尋ねた。
 グランテールは答えた。
「みんな感心だが、君だけは簡単だね。二本の瓶に驚く奴《やつ》があるか。」
 ふたりはまず食う方から先にし、グランテールは飲む方を先にした。一瓶の半ばはすぐ飲みつくされてしまった。
「君の胃袋には穴があいてるんだね。」とレーグルは言った。
「君の肱《ひじ》にも穴があるじゃないか。」とグランテールは言った。
 そしてコップの葡萄酒《ぶどうしゅ》を飲み干して彼は言い添えた。
「おい、弔辞のレーグル、君の服はずいぶん古いね。」
「古い方がいいさ。」とレーグルは言った。「だから僕と服との間は至ってうまくいくんだ。僕の癖をすべてのみこんでくれてるし、少しも僕の意に逆らわないし、僕のかっこうのとおりになり、僕の身振りによく従ってくれる。暖かな点でようやく服をつけてるなとわかるくらいなもんだ。古い服は古い友人と同じさ。」
「それは本当だ。」とジョリーもふたりの会話に口を出して叫んだ。「古いアビ(服)は古いアビ([#ここから割り注]アミ、友人[#ここで割り注終わり])だ。」
「ことに、」とグランテールは言った、「鼻感冒《はなかぜ》をひいてる者が言えばそういう音になる。」
「グランテール、」とレーグルは尋ねた、「君は大通りからきたのか。」
「いや。」
「ジョリーと僕は、行列の先頭を見てきた。」
「盛んなものだったよ。」とジョリーが言った。
「この街路は実に静かだ。」とレーグルは叫んだ。「パリーがひっくり返るような騒ぎをしてるとは思えないね。昔この辺は修道院ばかりだったというのももっともだ。デュ・ブルールとソーヴァルとがその名前をあげてるし、ルブーフ師もそれをあげてる。この付近にはまったく修道士どもがうようよしてたんだ、靴《くつ》の奴《やつ》、跣足《はだし》の奴、いがぐり頭の奴、髯《ひげ》の奴、灰色服の奴、黒服の奴、白服の奴、フランシスカン派、ミニム派、カプェサン派、カルム派、小オーギュスタン派、大オーギュスタン派、旧オーギュスタン派、……いっぱいいたんだ。」
「僧侶の話なんかよせ、」とグランテールはさえぎった、「むしゃくしゃしてくる
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