abri.
(犬が吠える、パリーの駅馬車が森の中を通るらしい。)
〔Le dab est sinve, la dabuge est merloussie`re, la fe'e est bative.〕
(亭主は愚かだ、女房は狡猾《こうかつ》だ、娘はきれいだ。)
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またしばしば、聴者を惑わさんがために、隠語ではすべての言葉に一種の曖昧《あいまい》な尾を、aille, orgue, iergue, uche などの語尾を、ただ漠然《ばくぜん》と添えるだけのことがある。
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Vousiergue trouvaille bonorgue ce gigotmuche?
(この焼肉は気に入ったか?)
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これはカルトゥーシュが門監に向かって、脱走するためにつかました金額が彼の気に入ったかどうか尋ねた言葉である。また mar という語尾もかなり最近に使われるようになった。
隠語は腐乱の語であるから、直ちに腐乱してゆく。その上、常に隠密ならんことを求むるから人に理解されたと思えばすぐに変形してゆく。すべて他の植物と反対に、日光に触れた部分は死滅してゆく。かくして隠語は絶えず解体しまた組成する。決して止まることのない影の中の急速な働きである。十年のうちにも、普通の言語が十九世紀間にたどる以上の道を進む。そして種々に変化してゆく。たとえば――
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パン…… larton ―→ lartif.
馬…… gail ―→ gaye.
藁《わら》……fertanche ―→ fertille.
子供…… momignard ―→ momacque.
着物…… siques ―→ frusques.
教会堂…… chique ―→ 〔e'grugeoir.〕
首…… colabre ―→ colas.
悪魔…… gahisto ―→ rabouin ―→ boulanger.
牧師…… ratichon ―→ sanglier.
短剣…… vingt−deux ―→ surin ―→ lingre.
警官ら…… railles ―→ roussins ―→ rousses ―→ marchands de lacets ―→ coqueurs ―→ cognes.
死刑執行人…… taule ―→ Charlot ―→ atigeur ―→ becquillard.
殴《なぐ》り合う…… se donner du tabac(煙草をかぎ合う――十七世紀)―→ se chiquer la gueule(頤《あご》を咬《か》み合う――十九世紀)。
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そしてこの最後のものなどは、数多くの異なった言い方が、両者の間に存在していた。カルトゥーシュの言葉とラスネールの言葉とは全く異なっていた。そして隠語のすべての言葉は、それを話す人々と同じく絶えず逃げ回っている。
けれども時々、かえってこの変化のために、古い隠語が再び現われてきて新しいものとなることがある。そしてその維持されてゆく中心地はいくつもある。タンプルの一郭は十七世紀の隠語を保存していた。ビセートルが監獄であった頃は、テューヌ団の隠語を保存していた。そこでは昔のテューヌ仲間の anche という語尾が残っていた。
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Boyanches−tu?(飲むか)
Il croyanche.(彼は思う)
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しかしそれでも、原則としては常住に変化するものである。
もし哲学者にして、絶えず消散してゆくこの言語を、よく観察するために一時一定の形に引き止めるならば、彼は痛ましいかつ有益な瞑想《めいそう》に沈み込むであろう。いかなる研究も、隠語の研究ほど教育上に有効で材料豊富なものはない。そのいずれの比喩《ひゆ》もいずれの語源も皆、それぞれ一つの教訓を含んでいる。――隠語を話す者らの間では、battre([#ここから割り注]打つ[#ここで割り注終わり])は feindre([#ここから割り注]装う[#ここで割り注終わり])という意味になる。On bat une maladie.([#ここから割り注]人は病気を打つ――に勝つ――を装う。[#ここで割り注終わり])狡猾《こうかつ》は彼らの力である。
彼らにとっては、人間という観念は影という観念と離れない。夜を sorgue といい、人を orgue という。すなわち人は夜の転化語である。
彼らは常に社会をもって、自分らを殺す大気のように考え、致命的な力のように考えている。そして人が自分の健康のことを語るように、自分らの自由のことを語っている。捕縛された者は一つの malade([#ここから割り注]病人[#ここで割り注終
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