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blavet([#ここから割り注]ほとばしる水[#ここで割り注終わり])―― blavin, ハンカチ。
meinec([#ここから割り注]石ばかりの[#ここで割り注終わり])―― 〔me'nesse,〕 女(悪い意味での)
baranton(泉)―― barant, 小川。
goff([#ここから割り注]鍛冶屋[#ここで割り注終わり])―― goffeur, 錠前屋。
guenn−du([#ここから割り注]白黒[#ここで割り注終わり])―― 〔gue'douze,〕 死。
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終わりに歴史をとれば、隠語では金銭のことを maltaises と呼んでいる。それは Malte([#ここから割り注]マルタ島[#ここで割り注終わり])の漕刑場《そうけいじょう》で通用していた貨幣のなごりである。
以上述べた言語学上の起原の外に、なお一層自然で、いわば人の精神からきたような他の語根を、隠語は持っている。
第一には言葉の直接の創造である。言語の不可思議さはそこにある。いかにしてかまたなぜにかわからないがとにかくある形容を有する言葉で、物を描き出す。それは人間のあらゆる言語の原始的根底であって、言語の岩層ともいうべきものである。どこでまただれから創《つく》られたともわからず、原語もなく、類語もなく、転化語もなく、直接の言葉で孤立した野蛮なまた時には嫌悪《けんお》すべき言葉であって、不思議に力強い表現力を持って生きているものが、隠語のうちには無数にある。たとえば――
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taule ……死刑執行人。
sabri ……森。
taf ……恐怖、逃亡。
larbin ……従僕。
pharos ……将軍、知事、大臣。
rabouin ……悪魔。
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物を隠すと共に現わすそれらの言葉ほど世に不思議なものはない。ある言葉、たとえば rabouin のごときは、滑稽《こっけい》であると共にまた恐ろしいもので、巨人の渋面を見るがような感を起こさせる。
第二には比喩《ひゆ》である。すべてを言いすべてを隠さんとする一言語の特質は、形容を豊富にすることである。比喩は仕事を計画する盗人が逃げ込む謎《なぞ》であり、脱走の策をめぐらす囚人が逃げ込む謎である。いかなる語法も隠語ほど比喩に富むものはない。
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〔de'visser le coco〕([#ここから割り注]ココ酒の栓をぬく[#ここで割り注終わり])……首をねじ切る。
tortiller([#ここから割り注]ねじる[#ここで割り注終わり])……食う。
〔e^tre gerbe'〕([#ここから割り注]束にされる[#ここで割り注終わり])……裁かれる。
un rat([#ここから割り注]一匹の鼠[#ここで割り注終わり])……パン盗人。
il lansquine ……雨が降る。
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この最後のものは、特殊な古い形容であって、多少そのできた年代をも示している。それは斜めの長い雨足を lansquenets(十五六世紀頃のゼルマン歩兵)の密集した斜めの槍《やり》にたとえたもので、しのつく雨[#「しのつく雨」に傍点]という通俗の換喩を一言のうちにこめたものである。時とすると隠語は、初期から次の時期に至るに従って、その言葉も野蛮な原始的状態から比喩の意味のものに変わってくることがある。悪魔をさす言葉も、rabouin から boulanger(パン屋)――竈《かまど》の中で焼く者――となっている。才気は増してきたけれど壮大さは減じてきて、コルネイユの後にラシーヌがきたようなものであり、アイスキロスの後にエウリピデスがきたようなものである。またある句などは、両時期にまたがって野蛮な趣と比喩的な趣とを兼有して、幻覚に似たものもある。〔Les sorgueurs vont sollicer des gails a` la lune.〕(徘徊者は夜中に馬を盗みに行く。)そういう言葉は一群の幽霊のように人の頭をかすめ過ぎる。眼前に見える者は果たして何者であるか人にはわからない。
第三には方便である。隠語は普通の言語によって生きている。でき心のままに普通の言葉を使い、臨機応変にそれから種をくみ取ってき、必要に応じてそれを簡単粗雑なものに変えてしまっただけのものが多い。時としては、かく形をゆがめた普通の言葉と純粋な隠語の言葉とを結び合わして、おもしろい言い方を作り上げ、前にいった直接創造と比喩《ひゆ》との両要素の混合が感ぜらるるものもある。
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Le cab jaspine, je marronne que la roulotte de Pantin trime dans le s
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