Bしかし僕がもし金持ちであったら、世の中に貧乏な者をなくしてみせる。だれでも酒が飲めるようにしてみせる。おおもし善良なる心の者をしてふくれたる財布を持たしめば、万事はいかにうまくゆくことであろうぞ! ロスチャイルドの財産を有するイエス・キリストを僕は想像する。いかに多くの善を彼はなすであろう! マトロート、僕を抱け。お前はあでやかでしかも臆病だ。お前の頬《ほお》は妹の脣《くち》づけを呼び、お前の脣《くち》は恋人の脣づけを招く!」
「黙れ、酒樽《さかだる》めが!」とクールフェーラックは言った。
 グランテールは答えた。
「僕はカピトゥールにして詩花会の主脳だ!」([#ここから割り注]訳者注 カピトゥールはツールーズの市吏員の古称で、またこの市には、毎年一回詩花会という、詩文の懸賞競技会が開かれていた[#ここで割り注終わり])
 手に銃を持って防堤の上に立っていたアンジョーラは、その厳乎《げんこ》たる美しい顔を上げた。読者の知るとおりアンジョーラにはスパルタ人の面影と清教徒の面影とがあった。テルモピレーにてレオニダスとともに死し、クロンウェルとともにドロゲダの町を焼き払うのに、彼はふさわしい男だった。
「グランテール!」と彼は叫んだ、「他の所で一眠りして酔いをさましてこい。ここは熱血児の場所で、酔っ払いの場所ではない。君は防寨《ぼうさい》の汚れだ。」
 その憤激の一語は、グランテールに特殊な影響を与えた。彼はあたかも顔に一杯の冷水を浴びせられたようだった。そしてにわかにまじめになった。彼は腰をおろし、窓のそばのテーブルの上に肱《ひじ》をつき、何とも言えぬやさしさでアンジョーラをながめ、そして彼に言った。
「僕は君を信頼してるよ。」
「行っちまえ。」
「ここへ寝かしてくれ。」
「他の所へ行って寝ろ。」とアンジョーラは叫んだ。
 しかしグランテールは、当惑したようなやさしそうな目をなお彼の上に据えて答えた。
「ここに僕を眠らしてくれたまえ……死ぬるまで。」
 アンジョーラは軽蔑の目で彼をながめた。
「グランテール、君は信ずることも、思索することも、意欲することも、生きることも、死ぬることも、みなできない男だ。」
 グランテールはまじめな声で返答した。
「まあ見ていたまえ。」
 彼はなお聞き取り難い言葉を少しつぶやいたが、それからテーブルの上に重そうに頭をたれ、アンジョーラか
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