モフ謎[#ここで割り注終わり])
すぐに馬は解き放されて、モンデトゥール街の方へ自由に追い放された。馬車は横倒しにされて、街路をすっかりふさいでしまった。
ユシュルー上さんは狼狽《ろうばい》のあまり二階に身を隠していた。彼女はただぼんやり目を見開いたまま何にも見ず、ただ低く泣いていた。そのおびえた泣き声は喉《のど》の外にはもれなかった。
「ああ世の中もおしまいだ。」と彼女はつぶやいた。
ジョリーは上《かみ》さんのしわよった赤い太い首に脣《くち》づけをしてやって、それからグランテールに言った。
「おい君《きび》、僕はいつも女の首ってぼのはこの上《ぶえ》もなく美妙なぼのと考えるね。」
しかしグランテールは無上の酔いきげんに達していた。マトロートが二階に上がってくると、彼女の腰をとらえて、盛んな笑い声を窓から外に送った。
「マトロートは醜い。」と彼は叫んだ。「マトロートは醜悪の夢だ。マトロートは一つの幻だ。この女の出生の秘密はこうだ。大会堂の水口を作っていたあるゴチックのピグマリオンが、([#ここから割り注]訳者注 ピグマリオンは古代の彫刻家で、おのれの手に成ったガラテアの像に恋いし、ヴィーナスからそれに生命を与えてもらってそれと結婚した人―神話[#ここで割り注終わり])ある時自分で作った最も拙劣な一つの水口に恋いした。彼は愛の神に願ってそれに生命を与えてもらい、かくてマトロートができたのである。諸君、彼女を見たまえ。チチアーノの情婦のようにクロム鉛の色をした髪の毛を持っている。そして善良な娘だ。うまく戦えることは僕が受け合う。善良な娘はすべて英雄的なところがあるものだ。またユシュルー上さんの方は、一個の古勇士《ふるつわもの》だ。その口髭《くちひげ》を見るがいい。亭主から受け継いだのだ。女驃騎兵《おんなひょうきへい》とも言える。これもまた戦える。このふたりの女だけでも、近郊を脅かすに足りる。諸君、吾人は政府をくつがえすことができる。真珠酸と蟻酸《ぎさん》との間に十五の酸があるのが真実であるとおり、それはまさしく確かなのだ。しかし僕にはどうでもかまわない。僕の親父《おやじ》は、僕をいつも数学がわからないといって軽蔑した。僕は愛と自由とをしか知らないんだ。僕はいい児のグランテールだ。かつて金を持ったことがなく、金にはなれていない、それゆえにかつて金の欠乏を知らないんだ
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