A父のことを思うと一種の屈辱と心痛とを感ずるようになった。
 彼がそういうふうにして生長している間に、二、三カ月に一度くらいは、大佐は家をぬけ出し、監視を破る刑人のようにひそかにパリーにやってきて、伯母のジルノルマンがマリユスを弥撒《ミサ》に連れて行くころを見計らい、サン・スュルピス会堂の所に立っていた。そこで、伯母がふり返りはしないかを恐れながら、柱の陰に隠れ、息を凝らしてじっとたたずんで、子供を見るのだった。顔に傷のある軍人も、その老嬢をかくまで恐れていたのである。
 そういうところから、彼はまたヴェルノンの司祭マブーフ師とも知り合いになったのである。
 そのりっぱな牧師は、サン・スュルピス会堂のひとりの理事と兄弟だった。理事はあの男があの子供をながめてる所を幾度も見た、そして男の大きな頬《ほお》の傷と目にいっぱいあふれてる涙とを見た。大丈夫らしい様子をしながら女のように泣いているのが、理事の心をひいた。その顔つきが頭の中に刻み込まれた。ところがある日彼は、兄に会いにヴェルノンへ行くと、橋の上で大佐に出会い、それがあのサン・スュルピス会堂の男であることを認めた。理事はそのことを司祭
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