黷ネかった。彼の方ではまた、あらゆる場合に陸軍大佐男爵ポンメルシー[#「陸軍大佐男爵ポンメルシー」に傍点]と署名することを欠かさなかった。彼は古い青服を一つしか持たなかった。そして外出する時にはいつも、レジオン・ドンヌール勲章のオフィシエの略綬《りゃくじゅ》をそれにつけていた。検察官は彼に「該勲章の不法|佩用《はいよう》」について検事局が起訴するかも知れないと予告してやった。その注意がある公然の規定をふんで手もとに達した時、ポンメルシーはにがにがしい微笑を浮かべて答えた。「私の方でもはやフランス語を了解しなくなったのか、あるいはあなたの方でもはやフランス語を話さなくなったのか、いずれだか知れないが、とにかく私にはあなたの言うことがわからない。」それから彼は一週間続けてその赤い略綬をつけて外出した。だれもあえてとがめる者はなかった。また二、三度陸軍大臣と管轄の司令官とは、「ポンメルシー少佐殿へ[#「ポンメルシー少佐殿へ」に傍点]」として手紙を贈った。それらの手紙を彼は封も開かないで返送してしまった。やはりちょうどそのころ、セント・ヘレナにいたナポレオンは、「ボナパルト将軍へ[#「ボナパル
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