「はまた、草の葉末に宿る露の玉が太陽の光に紅宝玉のように輝くのを見入っていた。彼の食卓はごく質素で、また葡萄酒《ぶどうしゅ》よりも多くは牛乳を飲んでいた。子供に対しても彼は一歩を譲り、召し使いからまでしかられていた。気味悪いくらいに内気で、めったに外出することはなく、顔を合わせる者とてはただ、彼のもとへやってくる貧民どもと、親切な老人である司祭のマブーフ師のみだった。けれども、町の人だのまたは他国の人だのだれであろうと、チューリップや薔薇《ばら》を見たがってその小さな家を訪れて来る時には、彼はほほえんで門を開いてくれた。それがすなわち前に言った「ロアールの無頼漢」だったのである。
 それからまた、軍事上の記録や、伝記や、機関新聞や、大陸軍の報告書などを読んだことのある者は、そこにかなりしばしば出て来るジョルジュ・ポンメルシーという名前を頭に刻まれたであろう。そのジョルジュ・ポンメルシーはごく若くしてサントンジュ連隊の兵卒であった。そのうちに革命が起こった。サントンジュ連隊はライン軍に属することになった。王政からの古い連隊は、王政|顛覆《てんぷく》後もなおその地方の名前を捨てないでいて、
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