彼の耳にささやいた。
「あれはジャヴェルだ。俺《おれ》はあいつに引き金を引くなあいやだ。貴様やってみるか。」
「やるとも。」とテナルディエは答えた。
「じゃあ打ってみろ。」
 テナルディエはピストルを取って、ジャヴェルをねらった。
 三歩前の所にいたジャヴェルは、彼をじっとながめて、ただこれだけ言った。
「打つな、おい、当たりゃしない。」
 テナルディエは引き金を引いた。弾《たま》ははずれた。
「それみろ!」とジャヴェルは言った。
 ビグルナイユは玄翁《げんのう》をジャヴェルの足下に投げ出した。
「旦那《だんな》は悪魔の王様だ、降参すらあ。」
「そして貴様たちもか。」とジャヴェルは他の悪漢どもに尋ねた。
 彼らは答えた。
「へえ。」
 ジャヴェルは静かに言った。
「そうだ、それでよし。俺が言ったとおり、皆おとなしい奴《やつ》らだ。」
「ただ一つお願いがあります、」とビグルナイユは言った、「監禁中|煙草《たばこ》は許していただきてえんですが。」
「許してやる。」とジャヴェルは言った。
 そして後ろをふり返って呼んだ。
「さあはいってこい。」
 剣を手にした巡査と棍棒《こんぼう》の類を持っ
前へ 次へ
全512ページ中503ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
ユゴー ヴィクトル の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング