ゥけなかった。女も好きだったが、もう十年この方断然そして全然女に接しないと自ら言っていた。「もう女の気に入らない」と言っていた。しかしそれにつけ加えて、「あまり年取ったから」とは決して言わず、「あまり貧乏だから」と言っていた。そしてよく言った、「私がもし尾羽うち枯らしていなかったら……へへへ。」実際彼にはもう一万五千フランばかりの収入きり残っていなかった。彼の夢想は、何か遺産でも受け継いで、妾《めかけ》を置くために十万フランばかりの年金を得ることだった。明らかに彼は、ヴォルテール氏のように生涯中死にかかってた虚弱な八十翁の類《たぐ》いではなかった。亀裂《ひび》のはいった長生きではなかった。この元気な老人は常に健康だった。彼は浅薄で、気が早く、すぐに腹を立てた。何事にも、多くは条理もたたないのに、煮えくり返った。その意見に反対しようものなら、すぐに杖《つえ》を振り上げた。大世紀([#ここから割り注]訳者注 ルイ十四世時代[#ここで割り注終わり])のころのようになぐりつけまでした。もう五十歳以上の未婚の娘を持っていたが、怒《おこ》った時にはそれをひどくなぐりつけ、また鞭《むち》でよくひっぱ
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