にさ。今言ってきかしたとおりだ。」
 問題の若い娘の名を言うことをテナルディエが避けてるのは明らかだった。彼は「アルーエット」(ひばり娘)と言いまた「あの子供」と言いはしたが、その名前は口に出さなかった。それは共犯者らの前にも秘密を守る巧妙な男の用心であった。名前を言うことは「その仕事」を彼らの手に渡してしまうことだったろう、そして彼らに必要以上のことを知らせることだったろう。
 彼は言った。
「署名しなさい。お前さんの名は何というんだ。」
「ユルバン・ファーブル。」と捕虜は答えた。
 テナルディエは猫《ねこ》のようにすばしこく手をポケットにつっ込んで、ルブラン氏から取り上げたハンカチを引き出した。彼はそのしるしをさがして、蝋燭《ろうそく》の火に近づけた。
「U・F、なるほど。ユルバン・ファーブル。ではU・Fと署名しなさい。」
 捕虜は署名をした。
「手紙を畳むには両手がいるから、わしに渡しなさい、わしが畳むから。」
 それがすむと、テナルディエは言った。
「住所を書きなさい。お前さんの家のファーブル嬢[#「ファーブル嬢」に傍点]と。ここからそう遠くねえ所に、サン・ジャック・デュ・オー
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