めて気づいて、あえて言うが、かなり気にかかって心苦しい驚きを感じた。
 テナルディエの道理ある観察は、クールフェーラックがルブラン氏[#「ルブラン氏」に傍点]という綽名《あだな》を与えたその荘重な不思議な人物を包む不可解の密雲を、いっそう暗くするもののようにマリユスには思えた。しかし、彼が果たして何人《なんぴと》であったにせよ、かく繩《なわ》に縛られ、殺害者らに取り巻かれ、言わばもう半ば墓穴の中につき込まれ、刻々にその墓穴は足下に深まりゆくにもかかわらず、またテナルディエのあるいは暴言の前にあるいは甘言の前にありながら、彼は常に顔色一つ動かさなかった。そしてマリユスは、そういう際におけるその崇高な幽鬱《ゆううつ》な顔貌《がんぼう》に対して、自ら驚嘆を禁じ得なかった。
 それこそまさしく、恐怖にとらわるることなき魂であり、狼狽《ろうばい》の何たるかを知らない魂であった。絶望の場合に臨んでも驚駭《きょうがい》の念をおさえ得る人であった。危機はいかにも切迫し、覆滅はいかにも避け難くはあったけれども、水中に恐ろしい目を見張る溺死者《できししゃ》のような苦悶《くもん》のさまは、少しも現われていな
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