たのであるか。父はマリユスに「テナルディエを救え」と言っていた、しかるにマリユスはテナルディエを打ちひしいでその敬愛せる聖《きよ》き声に答えんとするのか。その男は身の危険を冒して父を死より救い、父はその男を子たるマリユスに頼んでおいたのに、マリユスは今自らその男をサン・ジャックの広場に処刑さして、それを父の墓前にささげんとするのか。父が自らしたためた最後の意志をかくも長い間胸にいだいていながら、まさしくその正反対をなさんとは、何という運命の愚弄《ぐろう》であろう! しかしまた一方に、その待ち伏せを見ながらそれを妨げんともせず、被害者を見捨て殺害者を許さんとするのか! かかる悪漢に対して何らか感謝の念をいだき得るものであろうか。四カ年以来マリユスが持っていたあらゆる考えは、その意外の打撃によってずたずたに引き裂かれてしまった。彼は身を震わした。すべては彼の一存にかかっていた。彼の眼前に争っているそれらの人々は、おのずから彼の手中にあった。もし彼がピストルを打ったならば、ルブラン氏は救われテナルディエは捕えられるだろう。もしピストルを打たなければ、ルブラン氏は犠牲に供され、テナルディエはあ
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