んと望んでいたその男は、怪物だったのである。このポンメルシー大佐を救ってくれた男は、今やある暴行を行なわんとしていた。マリユスにはその暴行がいかなる形式のものであるかまだ明らかにはわからなかったけれども、とにかく殺害らしく思われるものだった。しかもその暴行はだれに向かって加えられんとしているのか! ああ何たる宿命ぞ、いかに苦《にが》き運命の愚弄《ぐろう》ぞ! 父は柩《ひつぎ》の底から彼に、でき得る限りの好意をテナルディエにつくすよう命じていた、そして四年の間彼は、父に対するその負債《おいめ》を果たさんとの念しか持っていなかった。しかるに、警官をして罪悪の最中における悪漢を捕えさせんとする瞬間に当たって運命は彼に叫んだ。「その男こそテナリディエである!」ワーテルローの勇ましい戦場で弾丸の雨下する中に救われた父の生命に対して、その男に彼はついに何をむくいんとするのか、絞首台をもってむくいんとするのか。もしテナルディエを見いだすこともあったら、直ちに馳《は》せ寄ってその足下に身を投じようと、彼はかねて期していた。そして今実際彼を見いだしはしたが、しかしそれは彼を刑執行人の手に渡さんがためだっ
前へ
次へ
全512ページ中456ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
ユゴー ヴィクトル の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング