く》たるサルペートリエールの一郭、そのすごい大通りと黒い楡《にれ》の並み木の長い列とを所々赤く照らしてる街灯の光、ひとりの通行人もなさそうな周囲四半里ばかりの間、その静寂と物すごさと暗夜とのまんなかにあるゴルボー屋敷、その屋敷の中に、その寂莫たる一郭の中に、その暗黒の中にあって、ただ一本の蝋燭《ろうそく》に照らされてるジョンドレットの広い屋根部屋《やねべや》、その部屋の中に向き合ってテーブルについてるふたりの男、一人は落ち着いた静かなルブラン氏、ひとりはほほえんでる恐ろしいジョンドレット、また片すみには牝《めす》の狼《おおかみ》のようなジョンドッレットの女房、それから壁の後ろには、人に見えない所にたたずんで、一語も聞きもらさず一挙動も見落とすまいとして、目を見張りピストルを握りしめてるマリユス。
 マリユスは一種不安な胸騒ぎを覚えたが、何らの恐怖をも感じなかった。彼はピストルの柄を握りしめて心を落ち着けた。「いつでも好きな時にあの悪党を押さえつけてやろう、」と彼は考えていた。
 どこか近くに警官が潜んでいて、約束の合い図を待って今にも腕を差し伸ばそうとしてるもののように、彼は感じていた
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