。」
「なぜだよ?」
「俺《おれ》の方でまだ買うものがあるんだ。」
「何を?」
「ちょっとしたものだ。」
「どれくらいかかるんだよ。」
「どこか近くに金物屋があったね。」
「ムーフタール街にあるよ。」
「そうだ、町角《まちかど》の所に、わかってる。」
「でもその買い物にいくらかかるんだよ。」
「五十スーか……まあ三フランだ。」
「ではごちそうの代はあまり残らないね。」
「今日は食物《くいもの》どころじゃねえ。もっと大事なことがあるんだ。」
「そう、それでいいよ、お前さん。」
女房のその言葉を聞いて、ジョンドレットは扉《とびら》をしめた。そしてこんどは、彼の足音が廊下をだんだん遠ざかっていって急いで階段をおりてゆくのを、マリユスは聞いた。
その時、サン・メダール会堂で一時の鐘が鳴った。
十三 ひそかに語り合う者は悪人の類ならん
マリユスは夢想家ではあったが、既に言ったとおり、また生来堅固な勇敢な男であった。孤独な瞑想《めいそう》の習慣は、彼のうちに同情と哀憐《あいれん》との念を深めながら、おそらく激昂《げっこう》する力を減じたであろうが、憤慨の力は少しもそこなわれずに
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