。世間にはどうしたわけのものか少しも老《ふ》けねえ奴《やつ》がいる。それから声までそっくりだ。ただいい服装《なり》をしてるだけのことだ。全く不思議な畜生だが、とうとうとらえてやったというもんだ。」
 彼は立ち止まって、娘らの方へ言った。
「お前たちは出て行くんだ。――ばかだな、あれに気がつかなかったって。」
 娘らは父の言うとおりに出てゆこうとして立ち上がった。
 母親はつぶやいた。
「手にけがをしてるのに……。」
「外の風に当たればなおる。」とジョンドレットは言った。「出て行け。」
 明らかに彼にはだれも口答えができないらしい。ふたりの娘は出て行った。
 ふたりが扉《とびら》から出ようとした時、亭主は姉娘の腕をとらえ、一種特別な調子で言った。
「お前たちはちょうど五時にここへ帰って来るんだぞ、ふたりいっしょに。用があるんだから。」
 マリユスは更に注意して耳を澄ました。
 女房とふたりきりになると、ジョンドレットはまた歩き出し、黙って室《へや》の中を二、三度回った。それからしばらくの間、着ていた女シャツの裾《すそ》をズボンの帯の中に押し込んでいた。
 突然彼は女房の方を向き、腕を組み
前へ 次へ
全512ページ中401ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
ユゴー ヴィクトル の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング