ひだ》が裂けていた。
御者は馬を止め、目をまばたき、マリユスの方へ左の手を差し出しながら、人差し指と親指との先を静かにこすってみせた。
「何だ?」とマリユスは言った。
「先にお金をどうか。」と御者は言った。
マリユスは十六スーきり持ち合わせがないことを思い出した。
「いくらだ?」と彼は尋ねた。
「四十スー。」([#ここから割り注]訳者注 四十スーは二フランに当たる[#ここで割り注終わり])
「帰ってきてから払おう。」
御者は何の答えもせず、ただラ・パリス([#ここから割り注]訳者注 素朴な小唄[#ここで割り注終わり])の節《ふし》を口笛で吹いて、馬に鞭《むち》を当てて行ってしまった。
マリユスは茫然《ぼうぜん》として馬車が行ってしまうのをながめた。持ち合わせが二十四スー足りなかったために、喜悦と幸福と愛とを失ってしまい、再び暗夜のうちに陥ってしまった。せっかく目が見えてきたのにまた見えなくなってしまった。彼は苦々《にがにが》しく、そして実際深い遺憾の念をもって、その朝あのみじめな娘に与えた五フランのことを思った。その五フランさえ持っていたら、救われ、よみがえり、地獄と暗黒とから
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