スが何か答える間もなく、彼女はテーブルのまん中にあった一枚の白紙へ書いた。
「いぬがいる[#「いぬがいる」に傍点]。」
それからペンを捨てた。
「字は違ってないでしょう。見て下さいよ。あたしたちは学問をしたのよ、妹もあたしも。前からこんなじゃなかったのよ。あたしたちだって……。」
そこで彼女は急に口をつぐんで、どんよりした瞳《ひとみ》をじっとマリユスの上に据え、そして笑い出しながら、あらゆる苦しみをあらゆる皮肉で押さえつけたような調子で言った。
「ふーん!」
そして快活な調子で次の文句を小声で歌い出した。
[#ここから4字下げ]
お腹《なか》がすいたわ、お父さん。
食う物がないよ。
身体《からだ》が寒いわ、お母さん。
着る物がないよ。
[#ここから6字下げ]
震えよ、
ロロット!
泣けよ。
ジャッコー!
[#ここで字下げ終わり]
そういう俗歌を歌い終わるが早いか彼女は叫んだ。
「マリユスさん、あなた時々芝居へ行って? あたし行くのよ。あたしには小さい弟があって、役者たちと友だちなので、時々切符をくれるの。でも向こう桟敷《さじき》はきらいよ。窮屈できたなくて、どうかすると乱暴
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