き回っていた。自分の肉体が露わであることなどは少しも気にしないで、室の中を騒ぎ回った。時とすると、破れ裂け取り乱したシャツはほとんど腰の所までたれ下がった。それでも彼女は、椅子《いす》を動かしたり、戸棚《とだな》の上にある化粧道具をかき回したり、マリユスの服にさわってみたりして、すみずみまで漁《あさ》り初めた。
「あら、」と彼女は言った、「鏡があるのね。」
 そしてあたかも自分ひとりであるかのように、切れぎれの流行歌やばかな反唱句などを口ずさんだが、しわがれた喉音《こうおん》のためにそれも悲しげに響いた。しかしそういう厚顔の下にも、言い知れぬ気兼ねと不安と卑下とが見えていた。不作法は一つの恥である。
 そういうふうに彼女が室《へや》の中を飛び回り、言わば日の光に驚きあるいは翼を折った小鳥のように飛んでるのを見るくらい、およそ世に痛ましいものはなかった。異なった教育と運命との下にあったならば、その若い娘の快活で自由な態度にも、おそらくある優しみと魅力とがあったであろう。動物のうちにあっては、鳩《はと》に生まれたものが鶚《みさご》と変わることは決してない。そういう変化はただ人間のうちにのみ
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