面からその英雄のことを語ってきかした。
一八三〇年ごろ、兄の司祭は死んだ。そしてほとんどすぐに、マブーフ氏の眼界は夜がきたように暗くなった。破産――公証人の――は、兄と自分との名義で所有していた全部である一万フランを、彼から奪ってしまった。七月革命は書籍業に危機をきたした。騒乱の時代にまっ先に売れなくなるものは特産植物誌などというものである。コートレー付近の特産植物誌[#「コートレー付近の特産植物誌」に傍点]はぱったりその売れ行きが止まった。幾週間たってもひとりの買い手もなかった。時とするとマブーフ氏は呼鈴《ベル》のなるのに喜んで飛び立った。「旦那様、水屋でございますよ、」とプリュタルク婆さんは悲しげに言った。ついにマブーフ氏はメジエール街を去り、会堂理事の職をやめ、サン・スュルピス会堂を見捨て、書物は売らなかったが版画の一部を売り――それは大して大事にしているものではなかった――そしてモンパルナス大通りに行って小さな家に居を定めた。しかしそこには三カ月しか住まなかった。それには二つの理由があった。第一は、一階と庭とで三百フランもかかるのに、二百フランしか借料にあてたくなかったからで
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