、アンジョーラはクールフェーラックを肱《ひじ》でつっついた。
「ジャン・ジャックに対しては黙っていたまえ。僕はその男を賛美しているんだ。彼は自分の子を打ち捨てはしたさ。しかし彼は民衆を拾い上げたじゃないか。」
 その青年らはだれも、「皇帝」という言葉を口にしなかった。一人ジャン・プルーヴェールだけは時々ナポレオンと言った。ほかの者らは皆ボナパルトと言っていた。アンジョーラはブオナパルト[#「ブオナパルト」に傍点]と発音していた。
 マリユスは漠然《ばくぜん》と驚きを感じた。知恵のはじめなり[#「知恵のはじめなり」に傍点]。([#ここから割り注]訳者注 神を―帝王を―恐るるは知恵のはじめなり[#ここで割り注終わり])

     四 ミューザン珈琲《コーヒー》店の奥室

 それらの青年らの会話には、マリユスもい合わしまた時々は口出しをしたが、そのうちの一つは、彼の精神に対して真の動揺を及ぼした。
 それはミューザン珈琲店の奥室で行なわれた。その晩、ABCの友のほとんど全部が集まっていた。燈火は煌々《こうこう》とともされていた。人々は激せずしかも騒々しく、種々なことを話していた。沈黙してる
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