ちがってる。市民階級は悲劇を愛するものだ。この点だけはほうっておくがいい。鬘《かつら》の悲劇にも存在の理由がある。僕はアイスキロスを持ち出してその存在の権利を否定する輩《やから》ではない。自然のうちには草案があるんだ。創造のうちにはまったく擬作の時代があるんだ。嘴《くちばし》でない嘴、翼でない翼、蹼《みずかき》でない蹼、足でない足、笑いたくなるような悲しい泣き声、そういうもので家鴨《あひる》は成り立ってる。そこで、家禽《かきん》が本当の鳥と並び存する以上は、クラシックの悲劇も古代悲劇と並び存していけないはずはない。」
 あるいはまた偶然、マリユスはアンジョーラとクールフェーラックとの間にはさまって、ジャン・ジャック・ルーソー街を通った。
 クールフェーラックは彼の腕をとらえた。
「いいかね。これはプラートリエール街だ。しかるに六十年ほど前に一風変わった家族が住んでいたために、今日ではジャン・ジャック・ルーソー街と名づけられてる。その家族というのは、ジャン・ジャックとテレーズだった。時々そこでは赤ん坊が生まれた。テレーズがそれを生むと、ジャン・ジャックがそれを捨ててしまった。」
 すると
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