蝋燭《ろうそく》の薄暗い光で、そこに横たわってる青ざめた大佐の頬《ほお》の上に、もはや生命のない目から流れ出た太い涙が見えていた。目の光はなくなっていたが、涙はまだかわいていなかった。その涙こそ、息子の遅延のゆえであった。
マリユスはこれを最初としてまた最後として会ったその男をじっとながめた、尊むべき雄々しいその顔、もはや物の見えないその開いた目、その白い髪、そして頑丈《がんじょう》な手足、その手や足の上には、剣の傷痕《きずあと》である黒い筋と弾丸の穴である赤い点とが、そこここに見えていた。また彼は、神が仁慈をきざんだその顔の上に勇武をきざみつけてる大きな傷痕《きずあと》をながめた。そして彼は、その男が自分の父であり、しかももはや死んでいることを考え、慄然《りつぜん》として立ちつくした。
しかし彼が感じた悲哀は、およそ人の死んで横たわってるのを見るおりに感ずる普通の悲哀だった。
悲痛が、人の心を刺す悲痛が、その室《へや》の中にあった。下女は片すみで嘆いており、司祭は祈祷《きとう》しながら嗚咽《おえつ》の声をもらしており、医者は目の涙をふいていた。死骸《しがい》自身も泣いていた
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