ヘおられません。」と女は言った。
その時彼は、女が泣いているのに気づいた。
彼女はすぐ入り口の室《へや》の扉《とびら》を彼にさし示した。彼ははいって行った。
その室は、暖炉の上に置かれてる一本の脂蝋燭《あぶらろうそく》の光に照らされ、中に三人の男がいた。ひとりは立っており、ひとりはひざまずいており、ひとりはシャツだけで床《ゆか》の上に長々と横たわっていた。その横たわってるのが大佐だった。
他のふたりは医者と牧師とで、牧師は祈祷《きとう》をしていた。
大佐は三日前から、脳膜炎にかかった。病気の初めから彼はある不吉な予感がして、ジルノルマン氏へ息子をよこしてくれるように手紙を書いた。果たして病気は重くなった。マリユスがヴェルノンへ着いたその夕方、大佐には錯乱の発作が襲ってきた。彼は女中が引き止めようとするにもかかわらず起き上がって叫んだ。「息子はこない! 私の方から会いに行くんだ。」それから彼は室を飛び出して、控え室の上に倒れてしまった。そしてそれきり息が絶えたのである。
医者と牧師とが呼ばれた。医者は間に合わなかった。牧師も間に合わなかった。息子のきようもまたあまり遅かった。
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