ーた。ロシア近衛騎兵《このえきへい》が歩兵第四連隊の一隊を壊滅さした時、その近衛騎兵をうち破って返報をした者の中にポンメルシーもいた。皇帝は彼に勲章を与えた。次に、マンテュアにてウルムゼルを捕虜とし、アレキサンドリアにてメラスを捕虜とし、ウルムにてマックを捕虜とした各戦争に彼は参加した。モルティエに指揮されてハンブールグを奪取した大陸軍の第八軍団に彼は属していた。次に昔のフランドルの連隊だった歩兵第五十五連隊に代わった。エイラウにおいては、本書の著者の伯父たる勇敢なルイ・ユーゴー大尉が、八十三人の一隊を提げて二時間の間敵軍の攻撃をささえたあの墓地に、彼もいた。彼はその墓地から生き残って脱してきた三人のひとりだった。彼はまたフリードランドの戦いにも参加した。次に彼はモスコーを見、ベレジナを見、ルッチェン、バウチェン、ドレスデン、ワルシャワ、ライプチッヒなどを見、ゲルンハウゼンの隘路《あいろ》を見、次に、モンミライ、シャトー・ティエリー、クラン、マルヌ川岸、エーヌ川岸、恐るべきランの陣地を見た。アルネー・ル・デュックにおいては、大尉になっていて、十人のコザック兵をなぎ払い、将軍の生命をではないが部下の伍長の生命を救った。その時彼は方々に負傷し、左腕からだけでも二十七個の弾丸の破片が見いだされた。パリー陥落の八日前には、彼は一同僚と地位を代わって騎兵にはいった。彼は旧制度の下でいわゆる二重の手[#「二重の手」に傍点]と呼ばれたものを持っていた、すなわち、兵士としては剣と銃とを同じく巧みに操縦し、将校としては騎兵隊と歩兵隊とを同じく巧みに操縦し得る能力を持っていた。そういう能力が更に軍隊教育によって完成さるる時に、特殊な軍隊が生まれたのである。全体として騎兵でありまた歩兵であった竜騎兵はその一例である。ポンメルシーはナポレオンに従ってエルバ島に赴《おもむ》いた。ワーテルローにおいては、デュボア旅団中の胸甲騎兵中隊の指揮官だった。ルネブールグ隊の軍旗を奪ったのは彼であった。彼はその軍旗を持ち帰って皇帝の足下に地に投じた。彼は血にまみれていた。軍旗を奪う時、剣の一撃を顔に受けたのである。皇帝は満足して叫んだ。「汝は今より大佐であり[#「汝は今より大佐であり」に傍点]、男爵であり[#「男爵であり」に傍点]、レジオン[#「レジオン」に傍点]・ドンヌール勲章のオフィシエ受賞者だぞ[#「ドンヌール勲章のオフィシエ受賞者だぞ」に傍点]。」ポンメルシーは答えた。「陛下[#「陛下」に傍点]、やがて寡婦たるべき妻のために御礼を申しまする[#「やがて寡婦たるべき妻のために御礼を申しまする」に傍点]。」一時間後に彼はオーアンの峡路におちいった。さてこのジョルジュ・ポンメルシーとは何人《なんびと》であったか。それはやはりあの「ロアールの無頼漢」その人であった。
 以上が彼の経歴の大略である。ワーテルローの戦いの後、読者は思い起こすであろうが、ポンメルシーはオーアンの凹路《おうろ》から引き出され、首尾よく味方の軍隊に合することができ、野戦病院から野戦病院へ運び回され、ついにロアールの舎営地に落ち着いたのである。
 王政復古のために彼は俸給を半減され、次にヴェルノンの住居へ、すなわち監視の下に、置かれることになった。国王ルイ十八世は一百日([#ここから割り注]訳者注 ナポレオンの再挙の間のこと[#ここで割り注終わり])のうちに起こったすべては無効であると考えていたので、彼に対しても、レジオン・ドンヌール勲章のオフィシエ受賞者であることも、大佐の階級も、男爵の肩書きも、少しも認めてはくれなかった。彼の方ではまた、あらゆる場合に陸軍大佐男爵ポンメルシー[#「陸軍大佐男爵ポンメルシー」に傍点]と署名することを欠かさなかった。彼は古い青服を一つしか持たなかった。そして外出する時にはいつも、レジオン・ドンヌール勲章のオフィシエの略綬《りゃくじゅ》をそれにつけていた。検察官は彼に「該勲章の不法|佩用《はいよう》」について検事局が起訴するかも知れないと予告してやった。その注意がある公然の規定をふんで手もとに達した時、ポンメルシーはにがにがしい微笑を浮かべて答えた。「私の方でもはやフランス語を了解しなくなったのか、あるいはあなたの方でもはやフランス語を話さなくなったのか、いずれだか知れないが、とにかく私にはあなたの言うことがわからない。」それから彼は一週間続けてその赤い略綬をつけて外出した。だれもあえてとがめる者はなかった。また二、三度陸軍大臣と管轄の司令官とは、「ポンメルシー少佐殿へ[#「ポンメルシー少佐殿へ」に傍点]」として手紙を贈った。それらの手紙を彼は封も開かないで返送してしまった。やはりちょうどそのころ、セント・ヘレナにいたナポレオンは、「ボナパルト将軍へ[#「ボナパル
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