肩をとらえた。そして仮面をつけた腹声の男は、彼の前に立ちふさがって、少しでも動いたら大鍵《おおかぎ》を食わして頭を打ち破ってやろうと待ち構えた。
同時にマリユスは、壁の下の方で自分のすぐ下に、低い声でかわされる次の対話を聞いた。あまり近いので、話してる者の姿は穴から見えなかった。
「こうなったらほかに仕方はねえ。」
「やっつける!」
「そうだ。」
それは主人と女房とが相談してるのだった。
テナルディエはゆっくりとテーブルの方へ歩み寄って、その引き出しを開き、ナイフを取り出した。
マリユスはピストルの手を握りしめた。異常な困惑のうちに陥った。一時間前から、彼の内心のうちには二つの声があった。一つは父の遺言を尊重せよと彼に語り、一つは捕虜を救えと彼に語っていた。その二つの声は絶えず互いに争闘を続けて彼をもだえさした。彼はこの瞬間まで、その二つの義務を相融和し得る道はないかと漠然《ばくぜん》と願っていた。しかしそれをかなえるようなものは何も起こってこなかった。しかるにもはや危機は迫っており、遅滞の最後は越えられていた。捕虜から数歩の所に、テナルディエはナイフを手にして考え込んでいた。
マリユスは昏迷《こんめい》してあたりを見回した。絶望の極の最後の機械的な手段である。
と突然、彼はおどり上がった。
彼の足下に、テーブルの上に、満月の強い光が一枚の紙片を照らし出して、彼にそれを示してるかのようだった。その紙片の上に彼は、テナルディエの姉娘がその朝書いた大きな文字の次の一行を読んだ。
――いぬがいる[#「いぬがいる」に傍点]。
一つの考えが、一つの光が、マリユスの脳裏をよぎった。それこそ彼がさがしている方法だった。彼を苦しめてる恐るべき問題の解決、殺害者を逃がし被害者を救う方法であった。彼は戸棚の上にひざまずき、腕を伸ばし、その紙片をつかみ取り、壁から一塊の漆喰《しっくい》を静かにはぎ取り、それを紙片に包みそのままそれを部屋《へや》のまんなかに穴から投げ込んだ。
ちょうど危うい時であった。テナルディエは最後の危懼《きぐ》もしくは最後の用心をおさえつけて、捕虜の方へ歩を進めていた。
「何か落ちた。」とテナルディエの女房は叫んだ。
「何だ?」と亭主は言った。
女房は駆け寄って、紙に包んだ漆喰を拾った。
彼女はそれを亭主に渡した。
「どこからきたんだ。」とテ
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