由になったので、それをねじあけ、中の鋸を使って縛られてる繩《なわ》を切ったものであろう。マリユスが気づいたかすかな音とわずかな動作とは、またそれで説明がつく。
見現わされるのを恐れて身をかがめることができなかったので、彼は左足の縛りめは切らなかったのである。
悪漢どもは初めの驚きからようやく我に返った。
「安心しろ。」とビグルナイユはテナルディエに言った。
「まだ左の足が縛ってある。逃げることはできねえ。受け合いだ。あの足を縛ったなあ俺《おれ》だぜ。」
そのうちに捕虜は声を揚げた。
「君らは気の毒な者どもだ。わしの生命はそう骨折って大事にするほどのものはない。ただ、わしに口をきかせようとしたり、書きたくないことを書かせようとしたり、言いたくないことを言わせようとしたりするからには……。」
彼は左腕の袖《そで》をまくり上げてつけ加えた。
「見ろ。」
同時に彼は腕を伸ばして、右手に木の柄をつかんで持っていた焼けてる鑿《たがね》を、そのあらわな肉の上に押し当てた。
じゅーっと肉の焼ける音が聞こえ、拷問部屋《ごうもんべや》に似たにおいが室《へや》にひろがった。マリユスは恐ろしさに気を失ってよろめき、悪漢どもすら震え上がった。しかしその異常な老人の顔はちょっとひきつったばかりだった。そして赤熱した鉄が煙を上げてる傷口の中にはいってゆく間、彼は平気なほとんど荘厳な様子で、美しい目をじっとテナルディエの上にすえていた。その目の中には、何ら憎悪《ぞうお》の影もなく、一種朗らかな威厳のうちに苦痛の色も消えうせてしまっていた。
偉大な高邁《こうまい》な性格の人にあっては、肉体的の苦悩にとらえられた筋肉と感覚との擾乱《じょうらん》は、その心霊を発露さして、それを額の上に現出させる。あたかも兵卒らの反逆はついに指揮官を呼び出すがようなものである。
「みじめな者ども、」と彼は言った、「わしが君らを恐れないと同じに、君らももうわしを恐れるには及ばない。」
そして彼は傷口から鑿を引き離し、開いていた窓からそれを外に投げ捨てた。赤熱した恐ろしい道具は、回転しながら暗夜のうちに隠れ、遠く雪の中に落ちて冷えていった。
捕虜は言った。
「どうとでも勝手にするがいい。」
彼はもう武器は一つも持っていなかった。
「奴《やつ》を捕えろ!」とテナルディエは言った。
悪漢のうちのふたりは彼の
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