を貪《むさぼ》り食ってやらあな。おい分限者さん、よく覚えておくがいい。俺はな、身分のある男だったんだ、免状を持っていたんだ、選挙の資格もあったんだ、りっぱな市民だったんだ、この俺がだぜ、ところが貴様にはそういうものが一つもねえんだろう、貴様にはな!」
そこでテナルディエは扉《とびら》のそばに立ってる男どもの方へ一歩進んで身を震わしながら言った。
「人の所へきやがって、靴直《くつなお》しかなんぞにでも言うような口をききやがるんだぜ。」
それからまた、更に怒り立ってルブラン氏の方へあびせかけた。
「そしてまたこういうことも覚えておいてもらおうぜ、慈善家さん! 俺《おれ》はな、後ろ暗え人間じゃねえんだ。名前を明しもしねえで人の家へ子供を取りに来るような者じゃねえんだ。俺はもとフランスの軍人だ、勲章でももらっていい人間だ。ワーテルローに行ってよ、何とかいう伯爵の将軍を戦争中に救ったんだ。名前をきかされたが、声が低くて聞き取れなかった。ありがとう[#「ありがとう」に傍点]というだけは聞こえた。そんな礼の言葉なんかより、名前を聞き取った方がよかったんだが。そうすればまた尋ね出すこともできようってわけさ。この絵はな、ブラッセルでダヴィドが描いたものなんだ。何が描いてあるかわかるか。この俺を描いたんだ。ダヴィドは俺の手柄を後の世まで残そうと思ったんだ。その将軍を背にかついで、弾丸《たま》の下をくぐって運んでゆくところだ。物語はざっとこのとおりさ。俺は何もその将軍に世話になっていたわけじゃねえ。他人も同様さ。それでも俺は生命を捨ててその人を助けた。その証明書はポケットに一杯あらあ。俺はワーテルローの名高い兵士だぞ。ところで、親切にそれだけ言ってきかしてやったからには、これでおしまいにしよう。つまり俺は金がほしいんだ。たくさんな金が、莫大《ばくだい》な金がほしいんだ。うんと言わなきゃあ、やっつけてしまうばかりだ、いいか。」
マリユスは心の苦悩を多少おさえ得て、耳を傾けていた。そして最後の疑念もすべて消えてしまった。その男こそまったく、父の遺言にあるテナルディエだったのである。そしてテナルディエが父の忘恩を非難するのを聞き、自分は今や必然にその非難を至当のものたらしめんとしていることを思って、マリユスは身を震わした。彼の困惑はますます深くなった。その上、テナルディエの言葉、その語調
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