の出現、その消失、あの娘の今の言葉、絶望の淵《ふち》のうちに漂ってきた希望の光、それらが入り乱れて彼の頭にいっぱいになっていた。
突然彼はその夢想から激しく呼びさまされた。
彼はジョンドレットの高いきびしい声を耳にしたのである。その言葉は彼の異常な注意をひくものだった。
「確かにそうだ、俺《おれ》はそうと見て取ったんだ。」
ジョンドレットが言ってるのはだれのことだろう? だれをいったい見て取ったのか。それはルブラン氏のことなのか。「わがユルスュール」の父親のことなのか。でもジョンドレットはいったい彼を知ってるのか。自分の生涯を暗闇《くらやみ》から救ってくれるあらゆる手掛かりは、かくも突然にまた意外に得られようとするのか。自分の愛する者はだれであるか、あの若い娘はいかなる人であるか、その父親はいかなる人であるか、遂にそれがわかろうとするのか。ふたりをおおっていた濃い闇もまさに晴れようとするのか。ヴェールはまさに引き裂かれんとするのか。ああ天よ!
彼は戸棚の上にのぼった、というよりもむしろ飛び上がった。そして例の壁の小穴の近くに位置を占めた。
彼は再びジョンドレットの陋屋《ろうおく》の内部を見た。
十二 ルブラン氏の与えし五フランの用途
一家の様子には前と変わった所はなく、ただ女房と娘たちとが包みの中のものを取り出して、毛の靴下《くつした》やシャツをつけていたばかりだった。新しい二枚の毛布は二つの寝台の上にひろげられていた。
ジョンドレットは今帰ってきたばかりらしかった。まだ外からはいってきたばかりの荒い息使いをしていた。ふたりの娘は暖炉のそばに床《ゆか》の上にすわって、姉の方は妹の手を結わえてやっていた。女房は暖炉のそばの寝床の上に身を投げ出して驚いたような顔つきをしていた。ジョンドレットは室《へや》の中を大またにあちこち歩き回っていた。彼は異様な目つきをしていた。
女房は亭主の前におずおずして呆気《あっけ》に取られてるようだったが、やがてこう言った。
「でも本当かね、確かかね。」
「確かだ。もう八年になるんだが、俺《おれ》は見て取ったんだ。奴《やつ》だと見て取った。一目でわかった。だが、お前にはわからなかったのか。」
「ええ。」
「でも俺《おれ》が言ったじゃねえか、注意しろって。全く同じかっこうで、同じ顔つきで、年も大して取ってはいねえ
前へ
次へ
全256ページ中200ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
ユゴー ヴィクトル の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング