地生まれの男だと一般に思われていた。一八一五年にアヴィニョンで運搬夫となっていたことがあるので、ブリューヌ元帥([#ここから割り注]訳者注 一八一五年アヴィニョンにて暗殺され河中に投ぜられし人[#ここで割り注終わり])にもいくらか手をつけたことがあるに違いない。その後運搬夫をやめて悪漢となったのである。
バベの小柄なのは、グールメルの粗大と対照をなしていた。バベはやせており、また物知りだった。身体は薄いが、心は中々見透かし難かった。その骨を通して日の光は見られたが、その瞳《ひとみ》を通しては何物も見られなかった。彼は自ら化学者だと言っていた。ボベーシュの仲間にはいって道化役者となり、またボビノの仲間にはいって滑稽家《こっけいか》となっていたこともある。サン・ミイエルでは喜劇を演じたこともある。気取りやで、話し上手で、大げさにほほえみ、大げさに身振りをした。「国の首領」の石膏像《せっこうぞう》や肖像を往来で売るのを商売にしていた。それからまた歯抜きもやった。市場《いちば》で種々な手品を使ってみせた。一つの屋台店を持っていたが、それにラッパと次の掲示とをつけていた。――諸アカデミー会員歯科医バベ、金属および類金属に関し物理的実験を試み、歯を抜き、同業者の手の及ばざる歯根の治療をなす。価、歯一本一フラン五十サンチーム、二本二フラン、三本三フラン五十サンチーム、好機を利用せよ。――(この「好機を利用せよ」というのは、「でき得る限り歯を抜くべし」という意味であった。)彼は妻帯して子供を持っていた。しかし妻も子供らもその後どうなったか自ら知らなかった。ハンケチでも捨てるように彼らを捨ててしまったのである。新聞を読むことができたが、それはその暗黒な社会での一異彩だった。ある日、まだその屋台店のうちに家族をいっしょに引き連れていた頃、メッサジェー紙上で、ある女が牛のような顔をした子を生んだが子供も丈夫にしているということを読んで、彼は叫んだ。「これは金[#「これは金」に傍点]儲《もう》けになる[#「けになる」に傍点]! だが[#「だが」に傍点]俺《おれ》の女房はそんな子供を設けてくれるだけの知恵もねえんだからな[#「の女房はそんな子供を設けてくれるだけの知恵もねえんだからな」に傍点]。」
それから後、彼はすべてをよして「パリーに手をつけ」初めた。これは彼自身の言葉である。
ク
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