どもを、ティヴォリの道化見世物ほどにも尊敬しない。上院議員らが蜜蜂《みつばち》のついた紫ビロードのマントを着アンリ四世式の帽子をかぶってマラケー河岸を通るのを、ある日私は見たことがある。胸くそが悪くなるような様子をしていた。ちょうど虎《とら》に従う猿《さる》のようだ。市民諸君、私は断言する、君らのいう進歩は狂乱である、君らの人類は幻である、君らの革命は罪悪である、君らの共和は怪物である、君らのいう純潔なる若きフランスは遊女屋から出て来るものだ。私はそれを主張する。よし君らが何であろうとも、新聞記者であり、経済学者であり、法律家であろうとも、また君らが断頭台の刃よりもよく自由平等博愛を知っていようとも! 私は断じてそう言うのだ、わが敬愛なる諸君!」
「しかり、」と中尉は叫んだ、「まったくそのとおりです。」
 ジルノルマン氏はやりかけた手まねをやめて、ぐるりと振り向き、槍騎兵《そうきへい》テオデュールの顔をじっと見つめ、そして言った。
「お前はばかだ。」
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   第六編 両星の会交



     一 綽名《あだな》――家名の由来

 当時のマリユスは、中背の美しい青年で、まっ黒な濃い髪、高い利発らしい額、うち開いた熱情的な小鼻、まじめな落ち着いた様子、そしてその顔には、矜《ほこ》らかで思索的で潔白な言い知れぬ趣が漂っていた。その横顔は線に丸みがあるとともにまた厳乎《げんこ》たるところがあって、アルザスおよびローレーヌを通じてフランス人の容貌《ようぼう》のうちにはいってきたゼルマン式の優しみがあり、ロマン種族中にあって古ゼルマン族の特長となり獅子族《ししぞく》と鷲族《わしぞく》とを区別せしむるあの稜角《りょうかく》の皆無さをそなえていた。頭を使う人の精神がほとんど等分に深さと無邪気さとを有する頃の年輩に、彼もちょうど属していた。大事の場合に際しては、あたかも愚鈍なるかのように思わるることもあり、また一転して崇高なる趣にもなった。その態度は、内気で、冷ややかで、丁寧で、控え目であった。脣《くちびる》はきわめて赤く歯はきわめて白く、いかにも魅力ある口だったので、そのほほえみは容貌の有する厳格さを償って余りあった。その清澄な額とその快楽的な微笑とは、ある時には不思議な対照をなした。目は小さかったが、目つきは大きかった。
 最も窮乏していた頃、若い娘らがよく自分
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