いつもこいつもみじめなものだ。女《ファンム》は破廉恥《アンファーム》と韻が合うんだ、そうだ、僕は憂鬱病《ゆううつびょう》にかかっている。メランコリーにかき回され、ノスタルジーにかかり、その上ヒポコンデリアだ。そして僕は腹が立ち、憤り、欠伸《あくび》をし、退屈し、苦しみ、いや気がさしてるんだ。神なんか悪魔に行っちまえだ。」
「|大文字R《グランテル》、まあ黙っておれったら。」とボシュエは言った。彼はまわりの仲間と権利ということを論じていて、半ば以上裁判の専門語に浸りきっていたが、その結末はこうであった。
「……僕はほとんど法律家とは言えず、たかだか素人《しろうと》検事というくらいのところだが、その僕をして言わしむれば、こういうことになるんだ。ノルマンディーの旧慣法の条項によれば、サン・ミシュルにおいては、毎年、所有者ならびに遺産受理者の全各人によって、他の負担は別として、当価物が貴族のために支払われなければならない、しかしてこれは、すべての永貸契約、賃貸契約、世襲財産、公有官有の契約、抵当書入契約……。」
「木魂《こだま》よ、嘆けるニンフよ……。」とグランテールは口ずさんだ。
グランテールのそばには、ほとんど黙り返ったテーブルの上に、二つの小さなコップの間に一枚の紙とインキ壺《つぼ》とペンとがあって、小唄《こうた》ができ上がりつつあることを示していた。その大事件は低い声で相談されていて、それに従事しているふたりの者は頭をくっつけ合っていた。
「名前を第一に見つけようじゃないか。名前が出てくれば事がらも見つかるんだ。」
「よろしい。言いたまえ。僕が書くから。」
「ドリモン君としようか。」
「年金所有者か。」
「もちろん。」
「その娘は、セレスティーヌ。」
「……ティーヌと。それから。」
「サンヴァル大佐。」
「サンヴァルは陳腐だ。僕はヴァルサンと言いたいね。」
小唄を作ろうとしてる人々のそばには他の一群がいて、混雑にまぎらして低い声で決闘を論じていた。年上の三十歳くらいの男が年若の十八歳くらいの男に助言して、相手がどんな奴《やつ》だか説明してやっていた。
「おい気をつけろよ。剣にはあいつかなりな腕を持ってるんだ。ねらいが確かだ。攻撃力があり、すきを失わず、小手と、奇襲と、早術《はやわざ》と、正しい払いと、正確な打ち返しとに巧みなんだ。そして左|利《き》きだ。」
グ
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