めつせん》、正面の惨劇、側面の惨劇、その恐るべき崩壊の下に戦線に立つ近衛兵。
近衛兵らはまさに戦死の期の迫ってるのを感ずるや、「皇帝万歳!」を叫んだ。ついにその喊声《かんせい》にまで破裂した彼らの苦悶《くもん》ほど人を感動せしむるものは、およそ歴史を通じて存しない。
その日空は終日曇っていた。しかし突然その瞬間に、晩の八時であったが、地平線の雲が切れて、ニヴェルの道の楡《にれ》の木立ちを通して、没しゆく太陽の赤いものすごい広い光を地上に送った。その太陽もアウステルリッツにおいてはのぼるのが見られたのであったが。
近衛の各隊は、その終局のために各将軍によって指揮されていた。フリアン、ミシェル、ロゲー、アルレー、マレー、ポレー・ド・モルヴァン、皆そこにいた。鷲《わし》の大きな記章をつけた近衛|擲弾兵《てきだんへい》の高い帽子が、一様に列を正し粛々としておごそかに、その混戦の靄《もや》のうちに現われた時、敵軍すらもフランスに対する畏敬の念を覚えた。あたかも二十有余の戦勝は翼をひろげて戦場に入りきたったかの観があって、勝利者たる敵軍も敗者たる心地がして後ろに退《さが》った。しかしウェリン
前へ
次へ
全571ページ中79ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
ユゴー ヴィクトル の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング