断崖《だんがい》をなし、両断崖の間に二|尋《ひろ》の深さをなし、口を開いてそこに待ち受けていた。その中に第二列は第一列を突き落とし、第三列は第二列を突き落とした。馬は立ち上がり、後方におどり、仰向《あおむけ》に倒れ、空中に四足をはねまわし、騎兵を振り落とし押しつぶした。もはや退却の方法はない。全縦隊は既に発射された弾丸に等しかった。イギリス軍を粉砕せんための力は、かえってフランス軍を粉砕した。苛酷な峡谷は自ら満たさずんばやまない。人馬もろともそこにころげ込んで、互いに圧殺しながらその深淵のうちに一塊の肉片と化し去ってしまった。そしてその墓穴が生きたる人をもって満たされた時、その上を踏み越えて他の者は通りすぎた。デュボアの旅団のほとんど三分の一はその深淵のうちに落ちてしまった。
 それが敗戦のはじまりであった。
 土地の言い伝えによれば、もちろん誇張されてはいようが、二千の馬と千五百人の人とがオーアンの凹路《おうろ》の中に埋められたという。その数にはもとより、戦闘の翌日そこに投げ込まれた他の死骸《しがい》のすべてをも算入したものであろう。
 ついでに一言しておくが、一時間以前に単独攻撃を
前へ 次へ
全571ページ中62ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
ユゴー ヴィクトル の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング