しふくれ上がっていた。広漠たる戦雲の所々の断《き》れ目からその姿が見られた。甲冑《かっちゅう》と叫喚と剣との交錯、大砲とラッパの響きのうちに馬背のすさまじい跳躍、整然たる恐るべき騒擾《そうじょう》、その上に多頭蛇の鱗《うろこ》のごとき彼等の胸甲。
かかる物語はあたかも現今と異なる時代に属するかの観がある。これに似寄った光景はたしか古代のオルフェウスの叙事詩中に出ている。そこには、人面馬体をそなえてオリンポスの山を乗り越えた、不死身《ふじみ》の壮大なる恐るべきタイタン族、サントール、古《いにし》えのイパントロープ、すなわち神にして獣なるあの怪物のことが、語られている。
不思議にも同数であったが、二十六個大隊のイギリス兵がそれらの二十六個騎兵中隊を迎え撃たんとしていた。高地の頂の後ろに、掩蔽《えんぺい》された砲座の影に、イギリス歩兵は二個大隊ずつ十三の方陣を作り、第一線に七個方陣、第二線に六個方陣をそなえて二線に陣を立て、銃床を肩にあて、まさにきたらんとするものをねらい撃ちにせんとして、静かに鳴りをひそめて身動きもせずに待ち受けていた。彼らには胸甲騎兵の姿が見えず、胸甲騎兵にも彼らの姿
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