城壁をつき破る青銅の撞角《とうかく》のごとくまっしぐらに、ラ・ベル・アリアンスの丘を駆けおり、既に幾多の兵士の倒れてる恐るべき窪地《くぼち》に飛び込み、戦雲のうちに姿を消したが、再びその影から出て、谷間の向こうに現われ、常に密集して、頭上に破裂する霰弾《さんだん》の雲をついて、モン・サン・ジャン高地の恐ろしい泥濘《でいねい》の急坂を駆け上って行った。猛烈に堂々と自若として駆け上っていった。小銃の音、大砲の響きの合間にその巨大なる馬蹄《ばてい》の響きは聞かれた。二個師団であって二個の縦列をなしていた、ヴァティエの師団は右に、ドロールの師団は左に。遠くからながむると、あたかも高地の頂の方へ巨大なる二個の鋼鉄の毒蛇《どくじゃ》がはい上がってゆくがようだった。それは一つの神変のごとくに戦場を横断していった。
 かくのごとき光景は、重騎兵によってモスコヴァの大角面|堡《ほ》が占領された時いらい、かつて見られない所であった。ミュラーはもはやいなかったが、ネーは再びそこにいた。あたかもその集団は一つの怪物となりただ一つの魂を有してるがようだった。各中隊は環状をなした水蛭《みずびる》の群れのごとく波動
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