ね。クロア・ルージュの料理女どもは皆俺の所へ頼みに来る。俺はその色男どもへ贈る手紙を書いてやるんだ。朝にはやさしい恋文を書き、夕になれば墓穴を掘る。ねえ、そういうのが世の中さ。」
棺車は進んでいた。フォーシュルヴァンは心痛の頂上に達して四方を見回した。汗の大きな玉が額から流れた。
「だが、」と墓掘り人はなお続けた、「二人の主人には仕えることができないものだ。俺《おれ》もペンと鶴嘴《つるはし》といずれかを選ぶべきだ。鶴嘴は物を書く手を痛めるからね。」
棺車は止まった。
歌唱の子供が喪の馬車からおり、次に牧師もおりた。
棺車の小さな前の車輪の一つは、うずたかい土の上に少し上がっていた。その向こうに口を開いてる墓穴が見えていた。
「なんて狂言だ!」とフォーシュルヴァンは唖然《あぜん》としてくり返した。
六 四枚の板の中
棺の中にいたのはだれであるか? 読者の知るとおり、ジャン・ヴァルジャンであった。
ジャン・ヴァルジャンはその中で生きておれるだけの準備をしておいた、そしてわずかに呼吸をしていた。
本心の安静がいかにその他のいっさいのものの安静をもたらすかは、実に不
前へ
次へ
全571ページ中531ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
ユゴー ヴィクトル の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング