ころが一八二四年の三月になって、サン・メダール教区内に住んでいて「施しをする乞食《こじき》」と綽名《あだな》されてる不思議な男のことを、彼は耳にした。人の話によれば、その男は年金を持っており、本当の名前はだれにもわからず、八歳ばかりの少女と二人きりで暮らしてる由で、また少女の方も、モンフェルメイュからきたというだけで、その他は何一つ知っていないそうだった。モンフェルメイュ! その名がいつも出て来るので、ジャヴェルは耳をそばだてた。そしてまた、その男からいつも施しを受けている元寺男で今は間諜《かんちょう》になってる乞食《こじき》の爺《じい》さんが、更にやや詳しい話をもたらした。「その年金所有者はきわめて不愛想である、晩にしか外に出ない、だれにも話しかけない、時々貧しい者に言葉をかけるきりである。人を身近によせつけない。なお、きたならしい黄色い古フロックを着ているが、それには紙幣がいっぱい縫い込まれていて数百万の値打ちがある。」その最後の点が強くジャヴェルの好奇心をそそった。それで、その不思議な年金所有者をひそかに間近く見るために、彼はある日、間諜《かんちょう》の老寺男が毎晩うずくまって祈
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