祷《きとう》の文句を鼻声でくり返しながら人をうかがってる場所と、その古ぼけたぼろとを借りうけた。
果してその「怪しい男」は、姿を変えたジャヴェルの方へやってきて施しをした。その瞬間にジャヴェルは顔を上げた。そして、ジャン・ヴァルジャンがジャヴェルの面影を認めて慄然《りつぜん》としたのと同じ気持ちを、ジャン・ヴァルジャンの面影を認めたジャヴェルも感じた。
けれども暗がりのことではあるし、あるいは見違いかも知れなかった。ジャン・ヴァルジャンの死は公然のこととなっていた。疑問が、重大な疑問が、ジャヴェルの頭に残された。細心なジャヴェルは、疑問のままその男の首に手をかけることをしなかった。
彼はその男のあとをゴルボー屋敷までつけて行って、それから「婆さん」に口を開かせようとした。それは別に困難なことではなかった。婆さんは彼に、百万フランの裏のついたフロックのことは本当だと断言し、千フラン紙幣の話をした。彼女はそれを実際見たのだ! 手を触れたのだ! でジャヴェルは一室を借りた。その晩からすぐにはいり込んだ。彼はその不思議な借家人の声の調子を聞き取ろうと思って、扉の所で立ち聞きをした。けれど
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