九 鈴をつけた男

 ジャン・ヴァルジャンは庭にいる男の方へまっすぐに進んで行った。彼はチョッキの隠しにはいっていた貨幣の包みを手に握っていた。
 男は顔を下に向けて、彼がやって来るのを知らなかった。大股《おおまた》に飛んで行ってジャン・ヴァルジャンはすぐ彼の所へ達した。
 ジャン・ヴァルジャンはそのそばに行って叫んだ。
「百フラン!」
 男はびくりとして目を上げた。
「百フランあげる、」とジャン・ヴァルジャンは言った、「もし今夜私を泊めてくれるなら!」
 月の光はジャン・ヴァルジャンの狼狽《ろうばい》した顔をまともに照らしていた。
「おや、あなたですか、マドレーヌさん!」と男は言った。
 そんな夜ふけに、不思議な場所で、その見も知らぬ男から、マドレーヌという名をふいに言われたので、ジャン・ヴァルジャンは思わずあとにさがった。
 彼は何でも予期してはいたが、そのことばかりは全く思いがけないことだった。彼にそう言った男は腰の曲がった跛の老人で、ほぼ百姓のような着物をきて、左の膝《ひざ》に皮の膝当てをつけ、そこにかなり大きな鈴をぶら下げていた。その顔は影になっていて見分けられなかった
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