は、ジャン・ヴァルジャンが声を低めながら自分に呼びかけてるのを聞いた。
「壁に背を向けなさい。」
 彼女はそのとおりにした。
「口をきいてはいけないよ、こわがってはいけないよ。」とジャン・ヴァルジャンはまた言った。
 そして彼女は地面から引き上げられるのを感じた。
 自ら気がつかないうちに彼女は壁の上にきていた。
 ジャン・ヴァルジャンは彼女をとらえて背にかつぎ、その小さな両手を左の手で押さえ、腹ばいになって、壁の上を切り取られた断面の所までやって行った。そこには彼の推察どおり、一つの小屋があって、木の塀《へい》の上から屋根がさし出て、ゆるやかな勾配《こうばい》をなして地面に近くたれていて、菩提樹《ぼだいじゅ》の木とすれすれになっていた。
 仕合わせなことだった。というのは、壁はその内部の方では外の街路の方よりもずっと高くなっていた。ジャン・ヴァルジャンは自分の下の方ごく深くに地面を見とめた。
 彼が屋根の斜面の所へ達して、壁の頂から離れようとした時に、激しい音が巡邏《じゅんら》のやってきたことを示した。ジャヴェルの雷のような声が聞こえた。
「袋町をさがしてみい! ドロア・ムュール街に
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