で。声を出したり、泣いたりすると、テナルディエの上さんが待ち受けてるよ。お前を取り戻しにきてるんだよ。」
それから、別に急ぎもせず、しかしすべてを一度でやってのけるようにして、しっかりした簡単な正確さで、それも巡邏とジャヴェルとが刻一刻に押し寄せつつある危急なおりなのでいっそう驚くべきことではあったが、彼は自分のえり飾りをはずし、それをコゼットの両腋《りょうわき》の下に身体を痛めないように注意して結わえ、海員たちが燕結《つばめむす》びと称する結び方でその襟飾《えりかざ》りを綱の一端に結わえ、綱の他の一端を口にくわえ、靴と靴足袋とをぬいで壁の向こうに投げ込み、築塀《ついべい》の上にのぼり、そして壁と切阿《きりづま》との角をよじのぼりはじめたが、あたかも踵《かかと》と肱《ひじ》とを梯子《はしご》にかけてるかと思われるほど確実自在なものだった。半分時とたたないうちに彼は壁の上にはい上がった。
コゼットは呆気《あっけ》にとられて一言も口をきかずに彼を見守っていた。ジャン・ヴァルジャンの言いつけと、テナルディエの上さんという名前とが、彼女を氷のように冷たく縮み上がらしていた。
たちまち彼女
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