いた、大きな白い壁が。
 彼は左の方をながめた。そちらの小路は開けていた。そして約二百歩ばかり向こうには、その小路が通じてる街路が見えていた。安全なのはその方であった。
 彼はその小路の向こうに見えてる街路に出ようと思って、左へ曲がろうとした。その時、彼が出ようとしてる街路とその小路との落ち合ってる角《かど》の所に、じっとして動かない黒い立像のようなものが見えた。
 それはだれか一人の男で、明らかにそこに見張りにやってきて、通路をふさいで待っていたのである。
 ジャン・ヴァルジャンはあとにさがった。
 ジャン・ヴァルジャンがいたパリーのその一地点は、サン・タントアーヌ郭外とラーペの一郭との間であって、その後の工事のために今は全くありさまが変わってる場所の一つである。ある者はそれを醜化だと言い、ある者はそれを面目一新だと言うが、とにかく変わってしまった。畑地や建築材置き場や古い建物はもうなくなってしまっている。今日ではそこに、新しい大通りがあり、演芸場や曲芸場や競馬場があり、停車場があり、マザスの監獄がある。その懲罰機関までそなえて、なるほど進歩である。
 翰林院《かんりんいん》を四国院
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