性質のうちにある受動的なものを注ぎ込んでしまっていた。その上、これはわれわれが何度もこれから認めることであるが、彼女は自分でもよく知らないうちに、数奇な運命とその老人の不思議な様子とになれてしまっていた。それからまた彼女は、その老人といっしょにさえいれば自分は安全だと思っていた。
 ジャン・ヴァルジャン自身も、コゼットと同じく、実はどの方面へ今進んでるかを知らなかった。コゼットが彼に身を託しているように、彼は神に身を託していた。彼もまた、自分より偉大な何者かの手にすがってるような気がしていた。だれか目に見えない者が自分を導いていてくれるように感じていた。それに彼は、何らはっきりした考えも、何らの計画も考案も持ってはいなかった。あの男がジャヴェルであったかどうかも確かでなければ、またジャヴェルであったにしろ、自分がジャン・ヴァルジャンであることを知ってたかどうかも、確かでなかった。彼は仮面をかぶっていたではないか、彼は死んだと信じられていたではないか。けれども確かに、数日来変なことが起こっていた。彼にはもうそれで十分であった。もうゴルボー屋敷へは帰るまいと彼は決心していた。あたかも巣窟《
前へ 次へ
全571ページ中311ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
ユゴー ヴィクトル の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング