えたのであろう? いったいどういう訳なのであろう?
 朝の七時に、婆さんが室《へや》を片付けにきた時、ジャン・ヴァルジャンは鋭い目つきでじろりと彼女をながめたが、何にも尋ねはしなかった。婆さんはいつものとおりの様子であった。
 掃除《そうじ》をしながら婆さんは彼に言った。
「旦那《だんな》は大方、夜中にだれかはいってきたのを聞かれたでしょう。」
 彼女ほどの老年にとっては、そしてその大通りでは、晩の八時といえばもうまっくらな夜である。
「なるほど、そうでした。」と彼はきわめて自然らしい調子で答えた。「いったいどういう人です。」
「新しく部屋を借りた人ですよ、この家の中に。」と婆さんは言った。
「そして名前は?」
「よくは存じませんが、デュモンとかドーモンとか、何でもそんな名前でしたよ。」
「そしてどういう人です、そのデュモンさんというのは。」
 婆さんは鼬《いたち》のような小さな目で彼を見上げて、そして答えた。
「年金を持ってる方ですよ、旦那《だんな》のように。」
 彼女はたぶん別に何の考えもなくそう言ったのであろうが、ジャン・ヴァルジャンはそれにある意味がこもってるように感じた。
 
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